遺言書の3つの種類-自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言-

弁護士 木谷 倫之 (きだに ともゆき)

相続対策として代表的なのが遺言書を作成することです。

一口に遺言とはいっても、遺言にはいくつかの種類があり、その方式も異なってきます。

遺言者(遺言をする人)の意思が確実に実現されるために、どの遺言を選択するのかは、遺言者、そして受遺者(遺言により財産を遺贈される人)にとっても、重要なことです。

そこで今回は遺言の種類とその内容、それぞれの遺言がもつ特徴について触れていきたいと思います。

(今回触れるのは、民法上の遺言のうち、「普通方式」といわれている遺言についてです。これとは別に「特別方式」と言われている遺言もありますが、ここでは説明を割愛します。)

自筆証書遺言について

自筆証書遺言とは、遺言者自身が遺言の本文・日付・氏名を自書し、押印することにより遺言書を作成するものです(民法968条)。

自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言のメリットとしては、以下の通りです。

  • ①いつでもどこでも遺言書を作成できる
  • ②公証人の費用がかからない
  • ③相続人たちへ思いを伝えやすい
  • ④相続が発生するまで遺言の内容を他人に知られずに済む

以下、詳しく説明していきます。

①いつでもどこでも遺言書を作成できる

②公証人の費用がかからない

紙、ボールペン、印鑑等があれば、どこにいても自由に遺言書を作成できることが最大のメリットです。

また、日中仕事で忙しくて中々公証役場へ赴く余裕がない方や公証人の費用をかけたくないという方は利用を検討してもよいと思われます。

※この点、2020年7月10日から始まる、自筆証書遺言の法務局における保管制度を利用する場合、その手数料を負担する必要があります。

③相続人たちへ思いを伝えやすい

自筆証書遺言の場合には、遺言者自身が自書するため、後述する他の方式の遺言に比べて、相続人や受遺者たちへの思いが伝わりやすいともいえます。

一部の相続人が遺留分を侵害されるような内容の遺言を残す等、相続時に揉め事が予想されるような場合には、付言事項として、なぜそのような内容の遺言を残したのか、その意図メッセージを残しておくだけでも効果があるのではないでしょうか。

④相続が発生するまで遺言の内容を他人に知られずに済む

自筆証書遺言により遺言をする場合の特徴としては、遺言者が亡くなるまで遺言内容を他人に知られないということも挙げられます。

これらのメリットを享受したいのであれば、自筆証書による遺言をすることも検討すると良いでしょう。

自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言のデメリットとしては、以下の通りです。

  • ①遺言の方式が厳格のため敷居が高い
  • ②遺言書の内容の特定が不十分な場合、遺言の執行が困難となる
  • ③遺言能力の有無を巡り関係当事者間でもめてしまう可能性がある
  • ④遺言書の検認手続きが必要なため、相続人の手間が増える
  • ⑤遺言書を遺言者自身で保管しなければならないため、紛失のおそれがある
  • ⑥遺言書が偽造・変造されてしまう可能性がある

以下、詳しく説明していきます。

①遺言の方式が厳格のため敷居が高い
自筆証書遺言の場合、民法968条で、財産目録以外は全て手書きしなければならないとされているほか、遺言の文章を記載に誤字脱字があった場合の訂正方法が厳格に定められており、この方式に反した遺言書は無効となってしまいます。

※これまで自筆証書遺言は、全て手書きすることが求められていましたが、2019年1月13日から、自筆証書遺言作成時の方式が緩和され、財産目録について手書き以外の方式が認められるようになりました。

②遺言書の内容の特定が不十分な場合、遺言の執行が困難となる
人物や財産に関する記載があいまいな場合には、遺言の内容を特定できないこととなってしまいます。

これらの不備があれば、当然遺言書の執行が困難な事態となってしまいます。

③遺言能力の有無を巡り関係当事者間でもめてしまう可能性がある
遺言者が遺言書作成時点で高齢であれば、自分に不利な遺言をされた相続人などから遺言当時の遺言者には遺言をするだけの能力が無いということを主張されてしまい兼ねません。

結果、遺言書自体の効力を疑われてしまう可能性もあるでしょう。

④遺言書の検認手続きが必要なため、相続人の手間が増える
自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所において遺言書の検認手続きが必要なため、相続人の手間が増えてしまうというのも難点です。

※この点、2020年7月10日から始まる、自筆証書遺言の法務局における保管制度を利用すると、検認手続きが不要となります。

⑤遺言書を遺言者自身で保管しなければならないため、紛失のおそれや発見されない恐れがある
作成後の遺言書は遺言者自身で保管しなければならないため、紛失や、相続人が遺言書を発見してくれないおそれがあることにも注意しなければなりません。

※この点、2020年7月10日から始まる、自筆証書遺言の法務局における保管制度を利用すると、法務局が原本及びデータで保管してくれるため、自分で保管することによる紛失リスクがなくなります。

また、遺言者の死亡後、相続人や受遺者から法務局に、遺言書の保管があるかどうかの照会をすることや証明書の請求をすることが認められますから、せっかく残した遺言書が発見されないというリスクは緩和されたといって良いでしょう。

⑥遺言書が偽造・変造されてしまう可能性がある
自筆証書遺言は、遺言者がいつどこででも作成できるため、偽造や変造されてしまう可能性が高い点が特徴的でもあります(このために家庭裁判所での遺言書の検認手続きが必要とされています)。

※この点、2020年7月10日から始まる、自筆証書遺言の法務局における保管制度を利用すると、法務局が原本及びデータを保管しますから、偽造や変造は心配する必要がなくなるでしょう。

ある程度費用をかけてでも、無用なトラブルを避け確実に遺言の内容を実現させたいという方や、厳格な方式が故の作成の手間を省きたいという方は、他の方式の遺言書の作成を検討した方が良いかもしれません。

自筆証書遺言を作成する場合にも、従来どおりのものが良いのか、法務局における保管制度を利用したほうが良いのか、それぞれの特徴をふまえた検討が必要です。

弁護士等の専門家に、方式の選択や文案の作成についての相談をしましょう。

公正証書遺言について

公正証書遺言とは、証人2名の立会いのもとで、公証人が遺言者から聞き取った内容をもって遺言書を作成するものです。

この場合、遺言書の原本が公証役場において保管され、遺言書の正本や謄本が遺言者に渡されます。

公正証書遺言のメリット

  • ①遺言内容が明確なため、遺言の執行も円滑にされる
  • ②遺言書の偽造や変造がされるおそれがない
  • ③遺言能力をめぐる紛争が起きにくい
  • ④遺言書の検認手続きが不要

以下、一つずつ説明していきます。

①遺言内容が明確なため、遺言の執行も円滑にされる
公証人という法律の専門家の方で、遺言者の要望を踏まえた上で、遺言者の意思が明確になるよう公正証書を作成してくれます。

そのため、遺言内容の特定や遺言の執行の際に支障が生じる可能性が極めて低くなります。

②遺言書の偽造や変造がされるおそれがない
公正証書遺言の場合、遺言書は公証役場において保管されるため、偽造・変造のおそれがないのが特徴です。

③遺言能力をめぐる紛争が起きにくい
遺言書作成時には、公証人の方で、遺言者の遺言能力の確認も行うため、遺言能力をめぐって関係当事者間で紛争が起きるリスクを軽減できることにもなります。

④遺言書の検認手続きが不要
公正証書遺言の場合、偽造・変造のおそれがないということからも、家庭裁判所における検認手続きは不要とされています。

相続発生後の相続人の負担が減るという意味でも、この点は大きなメリットといえます。

公正証書遺言のデメリット

  • ①公証人に提出する書類収集の手間がかかる
  • ②証人2名を用意する必要がある
  • ③公正証書作成の手数料が発生する

以下、詳しく説明していきます。

①公証人に提出する書類収集の手間がかかる
公正証書遺言の場合には、公証役場に公正証書遺言作成の依頼をするところからはじまります。

遺言者や受遺者の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書などの公的書類や遺言に記したい財産に関する資料(通帳の写し、登記簿謄本、固定資産評価証明書等)の提供も求められることがあるため、これらの書類を収集する手間がかかります。

②証人2名を用意する必要がある
公正証書遺言の場合、証人2名の立会いが要件とされており、候補者を立てなければならない点が特徴的です(相続人や受遺者となる方は証人になれません)。

また、遺言書を作成(完成)する際には証人2名とともに公証役場へ出頭する必要があるため、日中仕事などにより時間を取れない方には物理的に利用が難しい場合が想定されます。

ただ、入院中の方や施設に入っている方については、公証人が出張してくれることもあるので、公証役場へ一度確認してみると良いでしょう。

③公正証書作成の手数料が発生する
公証人に遺言書の作成を依頼する場合、当然公正証書作成の手数料が発生します。

遺言の対象となる財産により費用は異なりますが、一般的には数万円程度の費用が発生するため、容易に利用できるものではありません。

また、公正証書遺言の場合、公証人が公正証書を作成するとは言っても、どのような財産について遺言に残しておくか、どういった内容で残しておくか等について、一からなんでも相談に応じてくれるわけではなく、ある程度遺言書案を用意しておく必要があります。

ですから、弁護士等の専門家と、どういった財産があって、相続人には誰がいて、どの財産を誰に渡すのが良いか、そのためにはどういった内容の遺言書にしておくべきか、細かい内容を事前に打ち合わせて、遺言者の中でしっかり遺言内容について考えた上で、公証人にご連絡されることをおすすめします。

秘密証書遺言について

秘密証書遺言とは、遺言者自身が作成、封をした遺言書を、公証人及び証人2名の前に提出することで、遺言内容は秘密にしながら、存在自体は明らかにしておく遺言のことです(民法970条)。

秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言のメリットは以下の通りです。

  • ①相続が発生するまで遺言の内容を他人に知られずに済む
  • ②遺言書が発見されないという事態を防ぐことができる

以下、詳しく説明していきます。

①相続が発生するまで遺言の内容を他人に知られずに済む
秘密証書遺言の場合には、遺言内容を公証人や証人に知られることがないため、誰にも内容を知られずに遺言書を作成したい方にはおすすめです。

ただし、公証人も遺言の内容を確認しないことから、遺言者自身が作成した遺言書に不備があっても指摘してもらえないこととなりますので注意が必要です。

②遺言書が発見されないという事態を防ぐことができる
公証人や証人が遺言書の存在を把握しているため、せっかく作成した遺言書が発見されない事態を防ぐことができます。

秘密証書遺言のデメリット

  • ①遺言書の内容の特定が不十分な場合、遺言の執行が困難となる
  • ②遺言書の検認手続きが必要なため、相続人の手間が増える
  • ③遺言書を遺言者自身で保管しなければならないため、紛失のおそれがある
  • ④証人2名を用意する必要がある
  • ⑤公証人の手数料が発生する

以下、詳しく説明していきます。

①遺言書の内容の特定が不十分な場合、遺言の執行が困難となる
自筆証書遺言の場合と同様、遺言者自身が遺言書を作成するため、遺言内容が不明確なことにより遺言の執行が困難になる可能性があります。

②遺言書の検認手続きが必要なため、相続人の手間が増える
家庭裁判所における検認手続きが必要となるため、相続人の手間が増えることにもなります。

③遺言書を遺言者自身で保管しなければならないため、紛失のおそれがある
作成後の遺言書は遺言者自身で保管しなければならないため、紛失のおそれがあることにも注意しなければなりません。

④証人2名を用意する必要がある
⑤公証人の手数料が発生する
秘密証書遺言の場合、証人2名の立会いが要件とされており、候補者を立てなければならない点は公正証書遺言の場合と同様です。

また、公正証書遺言の場合と同様に公証人が関与する手続きのため、当然公証人の手数料が発生します。

秘密証書遺言の制度は、自筆証書遺言と公正証書遺言の良い部分と悪い部分が混在した制度ともいえます。

最大のメリットは遺言内容を他人に知られないことです。

ただ、どのみち公証人の費用をかけるのであれば、遺言内容に不備があるという事態を避けられる公正証書遺言の作成を検討することをおすすめします。

それでも秘密証書遺言を作成したいという方は、弁護士等の専門家にご相談の上で、一緒に文案を作成してもらうことをおすすめします。

遺言書に関するお悩みは当事務所にご相談ください

せっかく遺言書を作成しても相続人に発見されなければ元も子もありません。

遺言書を作成した後は信頼のできる親族などに遺言書を作成した事実と保管場所について、きちんと伝えておくことをおすすめします。

また、遺言書の作成時からある程度の年月が過ぎた場合、相続人や受遺者を取り巻く環境に変化があることも想定されます。

すべての遺言書に共通することですが、遺言書は何度でも書き直すことが可能であり、前の遺言書と後の遺言書の内容が重複・矛盾する部分については、後の遺言書の内容が優先することになります(内容が重複・矛盾しない部分については、前の遺言が依然として有効のままです)。

遺言書間での優劣についても特に制限がないため、例えば、過去に作成した公正証書遺言の内容について、自筆証書遺言をもって撤回することも可能となります。

将来の相続に備えて、遺言書の作成をご検討されている方は、一度専門家である我々にご相談されることをおすすめします。

初回相談 60分無料/土日祝日 相談対応/夜間20時まで対応

0120-479-821

無料相談予約はこちら