相続の承認・相続放棄について

弁護士 木谷 倫之 (きだに ともゆき)

相続が発生した時は、被相続人(亡くなった人)から相続人に、被相続人が有していた権利義務のすべてが承継されるのが原則です(民法896条)。

しかし、承継の対象となるのは、権利(不動産や預貯金のようなプラスの財産)だけでなく、義務(借金等)も含まれるため、いかなる場合にも被相続人の権利義務を引き継がなければならないのであれば、相続人にとって酷な結果となります。

そこで、民法では、相続が発生した場合の選択肢として、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という制度を設けています。

今回は、これらの制度の概要について触れていきたいと思います。

相続の承認とは

相続の承認とは、相続を受け入れることで、「単純承認」と「限定承認」に大別されます。

単純承認について

相続人が、何ら留保を付けることなく相続する旨の意思表示をすることを、単純承認と呼びます。

また、相続人がそのような意思表示をしなかったとしても、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、後述する「相続放棄」または「限定承認」の手続きが行われなかった場合には、民法上、単純承認したものとみなされることとされています(民法921条2号。法定単純承認)。

借金がほとんどない場合や仮に借金があったとしても遺産でまかなうことができるような場合であれば、多くの場合、単純承認を選択します。

また、先述の3か月の期間内であっても、相続財産に手を付けてしまうなど、通常相続人しか行い得ないような行為があった場合には、法律上、相続を承認したとみなされることとなります(これも法定単純承認事由です。(民法921条1号))

借金等の負債の存在が疑われるような場合には、限定承認や相続放棄という選択肢を失わないように、うかつに相続財産に手を付けることは避けましょう。

限定承認について

民法は、相続放棄や単純承認以外にもう一つの選択肢として「限定承認」という手続きを認めています(民法922条)。

限定承認の場合には、相続財産の限度で借金等の負債を弁済すれば足りることとされています。

相続したプラスの財産よりも負債の方が多かったときでも、プラスの財産以上の負担を負わなくて良いとされるのが特徴です。

限定承認の場合に気をつけなければならないのは、法定相続人全員が同意した上で行う必要があるという点です(民法923条)。

つまり、他の相続人たちは単純承認する意向なのに、自分だけ限定承認するというようなことは認められないことになります。

なお、限定承認についても、相続放棄の場合と同様に、管轄の家庭裁判所において手続きをする必要があります。

相続放棄とは

民法で認められた相続が発生した場合の選択肢の一つとして、「相続放棄」というものがあります。

相続放棄をすると、法律上、はじめから相続人にならなかったこととみなされるため(民法939条)、借金等の負担を負わなくて済む一方で、価値のある相続財産を受け取ることもできなくなってしまいます。

ひとたび相続放棄を選択すると、撤回することが認められないため(民法919条1項)、相続財産や借金等の負債がどの程度あるのか、しっかり把握しておくことが重要となります。

相続放棄の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければならないこととされています(民法915条1項)。

つまり、この期間内に、相続を承認するのか放棄するのか判断しなければならないのです(この期間のことを「熟慮期間」といいます)。

熟慮期間は3か月と短いため、例えば、被相続人と相続人とが生前音信不通であったような場合や相続人が把握していない被相続人の借金の存在が疑われるような場合には、3か月で相続放棄をするか否かの結論を出せないことも想定されます。

このような場合には、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長(いわゆる「熟慮期間の伸長」)」を申し立てることが認められています(民法915条1項ただし書き)。

相続放棄は、管轄の家庭裁判所に申述する(必要書類を提出する)ことによって行う必要があります(民法938条)。

相続人の中には、「自分は遺産なんていらないから相続を放棄する」といって念書を書いたりする方がいらっしゃいますが、これでは相続を放棄したことにはならないので注意しましょう。

相続の承認についてのお悩みは当事務所にご相談ください

相続を承認するにしても、相続を放棄するにしても、手遅れにならないように、すぐにアクションを起こすことが必要となります。

手続きのことは難しくてよくわからない方や仕事が忙しくてご自身で手続きを進めることができないという方は、一度専門家にご相談されることをおすすめします。

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