遺言書でできること-遺言書の汎用性について-

弁護士 木谷 倫之 (きだに ともゆき)

将来の相続に向けて、遺言を書くことを考えている方が増えています。

しかし、そもそも、遺言の中でどのようなことを書けば良いのか、どのようなことを書くことができるのか、いまひとつよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

遺言をもってできることは、大きく3つに分けることができます。

相続に関すること
身分行為に関すること
その他

そこで今回は、遺言をもってできることについて触れてみたいと思います。

相続に関すること

遺言で相続に関してできることは、以下の通りです。

  • 推定相続人の廃除及び廃除の取消し(893条、894条2項)
  • 相続分の指定又は指定の委託(902条)
  • 遺産分割方法の指定(908条前段)
  • 遺産分割を禁止すること(908条後段)
  • 特別受益の持戻しの免除(903条3項)
  • 相続人間の担保責任に関する別段の定め(914条)
  • 遺贈(964条)
  • 遺言執行者の指定又は指定の委託(1006条1項)

それぞれ、詳しく解説していきます。

推定相続人の廃除及び廃除の取消し

被相続人に対して生前に著しい非行等を行った推定相続人(ただし、遺留分を有する推定相続人に限られます)から相続権を奪うことを「廃除」といいます。

また、一度行った廃除を取り消すことも認められます。

相続分の指定又は指定の委託

法定相続分とは違った形で相続人の全部又は一部の相続分を指定することが認められます。

これを「相続分の指定」と言い、相続分の指定を第三者へ委託することも認められます。

遺産分割方法の指定

法定相続人のうち誰がどの財産を相続するのか具体的に指定することも認められます。

これを「遺産分割方法の指定」といい、遺産分割方法の指定を第三者へ委託することも認められます。

遺産分割の方法としては、「現物分割」「換価分割」「代償分割」があります。

遺産分割を禁止すること

遺言をもって、5年を超えない範囲内で、相続人たちが遺産分割を行うことを禁止することも認められています。

特別受益の持戻しの免除

ある相続人に特別受益がある場合、この相続人の本来の法定相続分から特別受益に相当する分を控除する調整を行うことになります。

しかし遺言で「この特別受益については持戻しの対象としない」等、持戻しの免除の意思表示をすることにより、この調整が不要となります。

相続人間の担保責任に関する指定

相続人が相続した遺産に瑕疵(欠陥)があった場合、他の相続人はそれについて担保責任を負うのが原則ですが、その責任について、減免する等、遺言をもって決めておくことも認められます。

遺贈

相続人以外の方に対しても、遺言をもって財産を承継させることができます。

これを「遺贈」といい、遺言でできることの代表格でもあります。

民法上、相続人がいない場合、最終的には相続財産は国庫へ帰属することになっています。

ですが、自分が一生懸命蓄えた財産ですから、国庫に帰属するよりも、生前にお世話になった人や団体へ財産を渡したいという思いもあるでしょう。

その場合には、遺言により、これを実現することができます。

遺言執行者の指定又は指定の委託

遺言の内容を実現するための遺言執行者を遺言で指定することができます。

遺言執行者の指定についても、第三者へ委託することが認められます。

身分行為に関すること

遺言で出来る身分行為に関することについては、以下の2点です。

  • 認知(781条2項)
  • 未成年後見人ないし未成年後見監督人の指定(839条1項、848条)

以下、それぞれについて解説していきます。

認知

婚姻関係にない男女の間に生まれた子について、その父が自分の子であることを認めることにより法律上の親子関係が発生しますが、これを「認知」といいます。

この認知についても、遺言をもって行うことができます。

未成年後見人ないし未成年後見監督人の指定

未成年者に対して親権を有する人が、遺言をもって自分の代わりに未成年者の保護者となる「未成年後見人」を指定することができます。

また、未成年後見人が適切に事務を遂行しているか監督する役割を持つ「未成年後見監督人」についても、遺言をもって指定することができます。

その他

そのほか、遺言でできることとして、以下が挙げられます。

  • 財団法人設立のための寄附行為(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律158条2項)
  • 信託の設定(信託法3条2号)
  • 祖先の祭祀主宰者の指定(897条1項ただし書)
  • 生命保険金の受取人の変更(保険法44条)
  • 付言事項

それぞれ解説していきます。

寄附行為(財団の設立)

法人である財団を設立する際には、「寄附行為」という財団の根本規則を定める必要がありますが、この寄附行為については、遺言をもって行うことが認められています。

遺言者が遺言の中で寄附行為を行っていれば、遺言者自身がなくなったときに、自らが望む財団を設立し、遺志を実現することも可能です。

信託

財産所有者(委託者)が金銭・不動産・有価証券等の財産について、委託者自身や他人(受益者)のために、第三者(受託者)をもって管理ないし処分させることが認められています。

これを「信託」といい、契約により行うこと(「契約信託」ともいいます)が一般的ですが、遺言をもって行うこと(「遺言信託」ともいいます)も認められています。

祖先の祭祀主宰者の指定

系譜・祭具・墓などの祭祀財産については、相続財産とは別に、祭祀を承継する方が引き継ぐこととなりますが、この祭祀を承継する人について、遺言をもって指定することが認められます。

仮に当該指定がなければ「慣習」により祭祀主宰者が定められ、慣習が判然としない場合には、「家庭裁判所」が祭祀承継者を定めることとされています。

生命保険金の受取人の変更

保険法上、生命保険金の受取人について、遺言をもって変更することが認められています。

ただし、「被保険者」の同意が必要とされていますので、保険契約者と被保険者が異なる場合には、注意が必要です。

また、遺言の効力発生後(遺言者の死亡)に、保険契約者の相続人から保険会社の方へ、生命保険金の受取人変更の遺言の効力が発生した事実を通知する必要があります。

遺言により生命保険金の受取人の変更を行う場合には、生命保険会社へ事前に確認することをおすすめします。

付言事項

上記に挙げた法律上規定されている遺言事項の他にも、遺言者から相続人へ向けたメッセージを記載する場合もあります。

遺言をした意図や相続人へ伝えたいことを記載することにより、相続人間での紛争の予防・緩和につながることも考えられます。

遺言書に関するご相談は当事務所にお任せください

以上のとおり、相続関係・人間関係・相続財産等によって、遺言書では色々なことができるので、相続対策の一環として、遺言を活用しましょう。

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