連れ子・元配偶者の子・愛人の子の相続権

弁護士 木谷 倫之 (きだに ともゆき)

家族のかたちが多様化する一方で、被相続人の隠し子・前妻や前夫の子を巡る相続トラブルが後を絶ちません。

被相続人との関係を巡って遺産分割協議の場が紛糾したときは、相続法の知識をベースとした話し合いがトラブル解決への近道です。

嫡出子でない子(愛人の子・再婚前に生まれた子)にも相続権は発生するのか、その場合にどのような法定相続分が認められるか という点について解説します。

嫡出でない子も相続できる


民法では、「被相続人の子」であれば相続人となるとされています(民法886条1項)。

ですから、嫡出でない子や連れ子、前妻や前夫の子も、血縁上や戸籍上の親子関係さえ証明できれば共同相続人に加わることができます。

【例】

  • 愛人の子
  • 前妻or前夫の子
  • 内縁関係の父母の子
  • 養子縁組した子

以下では、「嫡出でない子」「前妻or前夫との間の子」に大別し、家族のかたちの具体例で相続権の発生有無について確認してみましょう。

「嫡出でない子」と相続


そもそも「嫡出でない子(非嫡出子)」とは、被相続人と血縁上の親子関係にあるにもかかわらず、下記の、嫡出子の要件にあてはまらない子を指します。

嫡出子の定義【民法772条】

  1. 婚姻中に懐胎した子
  2. 婚姻成立201日目~離婚後300日以内に生まれた子

嫡出でない子の相続権は、被相続人による「認知」(民法779条)があるまで発生しません。

「認知」の手続きがない限り、親子関係が証明できないからです。

被相続人の婚外子


「独身時代の恋人との間の子」「愛人の子」は、嫡出でない子の代表格です。

相続人調査や遺言による認知・死後認知請求等による子からの申し出で判明することが多く、混乱が起きる原因となります。

内縁関係の夫婦間に生まれた子


事実婚状態のときに生まれた子は、嫡出でない子になります。

子が生まれた後に入籍して正式な夫婦になったとしても、父から子が相続するために認知届を提出しなければなりません。

内縁関係から入籍・父親側の認知を経たケースでは、その子は晴れて夫婦の「嫡出子」として扱われます(民法789条)。

「連れ子・元配偶者との子」と相続


被相続人夫婦に離婚経験がある場合、前妻または前夫とのあいだの子の相続権が問題となります。

相続トラブルに発展しやすい関係は「被相続人が元配偶者に親権を譲った子」「被相続人の現配偶者の連れ子」です。

被相続人の前妻または前夫の子の場合


被相続人が元妻または元夫に親権を譲った子は、相続開始時点で亡くなった親と疎遠であったとしても、共同相続人に加わることができます。

【例】再婚した夫婦のうち、夫が亡くなり、先妻との間の子が法定相続分を要求した。
→被相続人との親子関係は明白であることから、遺産分割協議に加わる権利を持ちます。

被相続人の配偶者の連れ子の場合


被相続人の現配偶者の連れ子は、両親の再婚という事実があっても共同相続人に加わることはできません。

現配偶者の連れ子を法定相続人にするには、被相続人の生前に養子縁組しておく必要があります。

【例】再婚した夫婦のうち、妻の連れ子に夫が経営する会社を継がせようとする場合
会社を継がせるためには株式移転が必要です。

遺言または生前贈与で移転させることができますが、養子縁組をしていない限り法定相続分は発生しないため、他の相続人から不満が出ると、子の立場が著しく不利になります。

生前に養子縁組を結んでおき、後継者を法定相続人に加えておくことで「株式移転を受ける代わりに他の相続人に金銭を支払う」等の事業承継をも絡めた遺産分割が実現しやすくなります。

嫡出でない子の相続分


「嫡出でない子」の相続分は、かつて嫡出子の1/2とされていました(旧民法900条4項但し書き)。

この条文は平成25年9月4日最高裁決定で憲法違反とされ、同年の相続法改正により、嫡出でない子も嫡出子と同等の相続分が認められるようになっています。

【例】被相続人の妻・4人の子の計5人で相続する場合

被相続人との関係 法改正後の相続分 法改正前の相続分
1/2 1/2
再婚後に生まれた子 1/8 1/7
妻の連れ子(養子縁組済) 1/8 1/7
被相続人の前妻の子 1/8 1/7
嫡出でない子(愛人の子) 1/8 1/14

養子縁組した子の相続分=嫡出子と同じ


養子縁組した子の相続分は、民法727条で「血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる」と規定されています。

つまり、相続分は血のつながった子と同じということですから、養子縁組をすれば、連れ子と再婚後に生まれた子のあいだで不平等が発生することはありません。

遺留分・代襲相続も発生する


被相続人と親子関係にあるすべての子は、遺留分と代襲相続が認められます。

子として最低限の相続分を求めたり、被相続人の血脈を通じて祖父母やおじ・おばから相続したりすることも認められているのです。

遺留分とは

被相続人の直系尊属・子(嫡出でない子や養子含む)に認められた、遺言でも侵すことのできない最低限の相続分。

代襲相続とは

法定相続人の相続権が失われているとき(死亡・欠格・廃除など)に、子がその相続分を受け継ぐ制度のこと。

親子関係が原因で発生しがちな相続トラブルの例


最も多いのが「隠し子や前パートナーとの子を巡る相続トラブル」です。

被相続人を側で支えてきた家族にとって、突然現れた人物と遺産分割協議を行うことは、耐えがたい苦痛を伴います。

【被相続人に近しい家族が抱えがちなトラブル】

  • 相続人調査のときに隠し子が見つかった。
  • 前妻・前夫の子が相続分を主張してきた。
  • 遺言で愛人の子が認知されていた。

離婚・再婚により複雑化した家庭でも、相続トラブルのリスクは無視できません。

家族のかたちが多様化するのに対して、相続法がそれに充分には追いついてはいないからです。

「血の繋がりはなくとも良好な関係を築いている」と自負していても、相続開始時点で予想外のトラブルに見舞われることがあります。

【連れ子・元配偶者の子が抱えがちなトラブル】

  • (前妻or前夫の)子として家業を助けてきたのに、遺留分さえもらえない。
  • 内縁関係の父母に認知されていなかったので、相続人になれない。
  • 親の再婚相手と良好な関係を築いてきたのに、養子縁組をしていなかったせいで相続権がない。

相続の専門家にできること


相続の専門家であれば、被相続人となる人の「今の家族を大切にしたい気持ち」と残された家族の「公平な相続に対する想い」を両方大切にすることができます。

生前の相続準備

「養子縁組や認知手続きに漏れがないか」「最後まで支えてくれた家族の功労に報いるための遺言作成」など、複雑化した家庭状況に応じてアドバイス可能です。

相続開始後のトラブル

予想外のトラブルに驚く家族と相手方のあいだに入り、相続分や遺産分割方法について依頼人が納得できる協議を実現できます。

被相続人の子どもには平等に相続権がある


被相続人と血縁または戸籍上での親子関係がある子は、嫡出子と変わりなく法定相続人として権利主張することができます。

嫡出でない子に相続させようとする場合、被相続人が男性(父親)なら、認知を要する点に注意しましょう。

【被相続人に対し相続権をもつ子ども】

  • 嫡出子
  • 被相続人の婚外子(認知要)
  • 内縁関係の夫婦間に生まれた子ども(認知要)
  • 被相続人の前妻or前夫との間の子
  • 被相続人の配偶者の連れ子(養子縁組要)

家族関係が複雑化すると、遺産分割協議が紛糾しがちです。

生前の相続準備にお困りのかた・トラブルに見舞われたご家族のかたは、話しづらいことでも気兼ねなく当法律事務所までご相談ください。

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