不動産の生前贈与について
最近は、相続に先立って生前に相続対策を行う方が増えています。
生前対策の代表例の一つとして挙げられるのが生前贈与です。
被相続人の金銭や不動産を推定相続人へあらかじめ贈与する方法が一般的です。
今回は、その中でも不動産の生前贈与についてご説明いたします。
生前贈与に基づく不動産登記は、相続登記の場合と比べても手続きは簡便でありますし、インターネット上からも様々な情報を収集できるので、ご自身で進める方が比較的多いのが実情です。
生前贈与のメリットとデメリット
まず、生前贈与についてのメリットとデメリットについて詳しく説明します。
生前贈与のメリット
生前対策として不動産を贈与すれば、以下のようなメリットがあります。
- 贈与した不動産につき将来相続が発生した際に別途手続きをせずに済む
- 推定相続人が複数いる場合には自分が望む方へ不動産を渡すことができる
一方で、遺言の場合も、自分が望む方へ不動産を渡すことができるのですが、この場合では、名義が移るのは相続発生後である点や、他の相続人から遺留分に基づく請求を受ける可能性がある点が贈与の場合と大きく異なります(ただし、生前贈与でも、相続開始前1年以内になされたもの等は遺留分に基づく請求の対象になります。)。
生前贈与のデメリット
ただし、贈与をする場合、上記のようなメリットばかりではありません。
贈与の場合のデメリットとなるのが、相続税の税率や相続登記の場合の登録免許税と比べて、贈与税の税率や登録免許税の税率が高く設定されているという点です。
そのため、対策として以下のいずれかの手続を取ることが増えています。
- 暦年贈与の基礎控除の範囲内で贈与を行う
- 相続時精算課税制度や長期婚姻期間のある夫婦間の贈与の特例(配偶者控除)を使って不動産の生前贈与を行い、これに基づく不動産登記を行う
ただし、これらの特例を使う場合であっても、登録免許税については、通常の贈与の場合の税率と変わりありません。
<暦年贈与の基礎控除の概要について>
「贈与税の計算と税率(暦年課税)」
<相続時精算課税制度の概要について>
「相続時精算課税の選択」
<長期婚姻期間のある夫婦間の贈与の特例(配偶者控除)の概要について>
「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
生前贈与に先だって行うべきこと
贈与の場合には、税率の計算のため、贈与に先だち、贈与の対象となる不動産の価格を算定するのが重要となります。
土地の場合には路線価、建物の場合には固定資産税評価額により算出するのが一般的です(贈与に基づく不動産登記の登録免許税の算定の場合においては、土地・建物ともに固定資産税評価額をもとに算定を行います)。
特例の対象となる金額を超える場合には、その金額を超過しない範囲内で、不動産の権利の一部(持分)の贈与にとどめる等、工夫も必要となります。
また、これらの特例を使う場合には、所定の期間内に税務申告の手続きが必要となります。
この税務申告の手続きをご自身で行う方も多いのですが、手続きが面倒であるという方や自分なりに不動産の評価額を計算してみたものの自信がないという方は、税理士等の専門家に相談する方が安全と考えられます。
生前贈与の登記について
それでは次に、生前贈与の登記について詳しく説明します。
生前贈与の契約は書面で残す
法律上は口頭のみの合意で贈与契約は有効に成立します。
しかし、以下の理由で書面に残す場合がほとんどです。
- 税務申告や他の相続人等の利害関係人へ後日説明ができるようにする
- 書面によらない贈与は撤回できると規定されているため、法律的に不安定の状況を招かないようにする
以上の理由から、贈与を行った場合にはきちんと書面に残すべきです。
生前贈与の登記の必要性
それでは、贈与契約書を作成しておけばそれで終わりかというと、決してそうではありません。
贈与が行われ、贈与契約書を作成したにすぎない場合においては、当事者の間では問題なく贈与があったことを主張ですることが認められますが、贈与の当事者以外の第三者に対しては、贈与に基づく登記を具備しなければ、贈与があったことを主張することが認められません。
余計な紛争を招かないためにも、贈与を行う場合には登記まで済ませておくようにしましょう。
生前贈与の登記に必要な書類
生前贈与の登記に必要な書類は以下の通りです。
- 登記原因証明情報(又は贈与契約書)
- 登記済証ないし登記識別情報
- 贈与者の印鑑証明書(登記申請日前3か月以内に発行されたもの)
- 受贈者の住民票
- 固定資産税評価額の記載のある証明書(市区町村によって名称が異なります)
おわりに
贈与契約書にどのような文言を入れれば良いのかわからないという方、贈与税の特例を使うことを検討されている方、自身で税務申告を行う余裕がないといいう方、そもそも生前贈与を行うメリットがある事例なのかよくわからないという方。
ぜひ、一度専門家にご相談することをおすすめします。