事業承継の方法―相続準備に入った経営者のための3つの選択肢―

弁護士 木谷 倫之 (きだに ともゆき)

国内にある中小企業の多くは、たったひとりの経営者の双肩に担われています。

経営者の相続対策には「事業承継」も含まれており、失敗は何としてでも避けなければなりません。

万が一の失敗で会社の価値が下がれば、相続財産の評価額低下を通じ、現経営者の家族にも悪影響を及ぼします。

「そろそろ事業の行く末を決めたい」と考える経営者の方に、事業承継の方法とその課題点について解説します。

事業承継の方法


現経営者が去ったあとも事業を存続させる場合、その方法は「後継者を選定する」「会社の所有権を第三者に移す」のいずれかです。

具体的には、次の3つの選択肢となります。

【事業承継の方法】

  • 親族間承継
  • 親族以外の従業員等後継者への承継
  • 第三者または他法人への承継(株式公開・M&A)

中小企業の後継者不在率は、2018年時点で66.4%(帝国データバンク調査)と深刻です。

そこで「廃業(会社の清算)」という選択肢も考えられますが、現実的ではありません。

企業の価値は、経営者の長年の努力によって年々増加するものです。

廃業すると会社の価値の増加分を手にすることが出来ず、あまつさえ相続開始時点での清算だと「家族に負債と個人担保だけを残す」という結果になりかねないのです。

引退後の生活を豊かにし、家族にも十分な生活保障を行うために、事業承継の方法①~③のなかから今後のプランを練ることが最良策です。

親族内承継


承継方法が多様化した現在でも、日本国内の中小企業の50%以上が親族内承継による経営者交代を実現しています。

参考:2017年版「中小企業白書」

「家族だからこそ安心して任せられる」「後継者をわざわざ探さなくてもいい」というメリットがある一方で、育成に長い時間(5~10年)がかかることは否めません。

さらに、親族内承継には次の3つの課題があります。

【親族内承継の課題】

  • 本人のやる気
  • 取引先や従業員との関係
  • 相続トラブルに発展する可能性

職業の選択肢が多様化した現代では、後継者になることそのものを拒否される可能性もあります。

会社と一緒に個人保証や負債も承継することになるため、子が後継者候補であるケースでは「無理に継がせたくない」と思ってしまうのが親心でしょう。

また、従業員・金融機関・取引先の理解を得られるとも限りません。

火種はビジネスの場だけでなく、家族間にも存在します。

会社を継ぐ人とそれ以外の相続人のあいだで何らかの公平化を図らなければ、遺留分侵害等の問題が起きかねません。

親族内承継を成功させるためのポイント


親族内承継では「経営者交代の地盤固め」と「相続対策」をセットで考えることが成功の鍵です。

制度を最大限活用することを心がければ、相続人・企業双方の負担を軽減させることも可能です。

経営者交代の地盤固め

後継者と従業員との関係性を早めに構築し、取引先や金融機関に受け入れてもらえるよう地道に話し合う必要があります。

相続トラブル対策

遺留分に関する民法特例では、後継者に株式を集中させた上で遺留分算定基準から除外することが認められています。

それでも遺産分割を巡る争いが起る恐れがあります。

専門家を交えて相続人全員で、後継者から他の相続人に対する負担義務について話し合っておいて初めて、対策として十分であるといえます。

親族外の従業員等後継者への承継


中規模以上の企業では、親族にこだわらず社内から後継者を選定する方法も多く採用されます。

事業承継の負担を家族に負わせずにすむこと・会社のことを良く知っている人物に託せる安心感は、親族内承継にはないメリットです。

「経営権or株式」のどちらを譲渡するかが課題


親族外承継の最大の課題は、経営者交代の方法を見極めなければならない点です。

株式を譲渡する方法だと後継者に一定の資力が求められます。

かといって経営権だけの譲渡では会社に対する支配が完全とはいえません。

①株式譲渡で交代する場合
株式譲渡による経営者交代は、後継者の会社に対する支配権を確立できることがメリットです。

問題は、後継人に一定額の負担を強いることになる点です。

売買や会社新設による譲渡なら、後継者に対する資金面のサポートは欠かせません。

無償で株式を譲渡する場合でも、相続税または贈与税の負担が発生するため、事業承継税制(納税猶予)を含めた負担減のフォローが必要です。

②経営権譲渡で交代する場合
株式ではなく「経営権」だけを分離させて後継者に承継させれば、後継者の金銭的負担はほぼゼロで済みます。

しかしこの方法はあくまでも一時的な手段に過ぎず、いずれ後継者が支配権を握り得るだけの株を買い集めなければなりません。

株式を取得した相続人が「経営権を取り戻す」と主張し始めるリスクを考慮すると、やはり生前にプロの仲裁のもと話し合っておく必要があるでしょう。

第三者または他企業への承継


この問題の解決策として「株式公開」と「M&A(事業または会社の売却)」という方法も広く活用されるようになりました。

両者に共通するメリットとして、次の3点が挙げられます。

【株式公開とM&Aのメリット】

  • 個人保証から相続関係者全員を解放できる
  • 創業者利益が確保できる

いずれの承継手段も、現経営者の会社に対する影響力は極めて低くなるかほぼゼロになります。

その一方で、投資した資金と「会社が過去から未来にかけて生み出す価値」との差額が入手できることは見逃せません。

承継を成功させることで、引退後の現経営者と相続人の双方の生活を豊かにすることが望めます。

「株式公開」のデメリット:条件が厳しい


株式公開とは、証券取引所への上場を通じ、会社の所有者を「投資家」へ転化させる承継方法です。

資金と人材の両方が獲得しやすくなり、後継者探しの難易度を下げられるのがメリットです。

ただし、株式公開企業にふさわしいと認められるのは容易なことではありません。

東証に新規上場する企業は年間わずか80~90社であり、財務・経営体質に求められる条件が極めて厳しいからです。

参考:「日本取引所グループ資料」

「M&A」のデメリット:税金の発生


M&Aとは「事業を譲り受けて自社の発展に繋げたい」と考える第三者(個人または法人)への事業売却を指します。

後継者選定の悩みから完全に解放され、最短4~6ヵ月で事業承継を実現できる点が魅力的です。

その一方で、売り手側(現経営者)の税対策は必要不可欠です。

後継者を選定とする方法と同じく「株式譲渡」による売却が一般的ですが、売り手側に最大43.4%(所得税15%+住民税5%+法人税23.4%)の税金が発生する点は見逃せません。

「引退後の生活を豊かにしたい」「家族のために十分な相続財産を残したい」という目的でのM&Aこそ、税理士によるサポートが必要です。

事業承継の方法は「相続+税金」のセットで考える必要がある


高齢の現経営者が事業承継を検討するなら「生前の相続準備+承継時のコスト対策」をセットで考える必要があります。

具体的な事業承継の方法が決まれば、会社経営に欠かせない不動産等の資産をどう移転させるべきかという問題も生じるでしょう。

当法律事務所では弁護士・司法書士・税理士が密に連携をとり、時として相続人同士や後継者候補との話し合いも取り持ちながら「最良の引退」を実現することができます。

「会社と家族両方の将来を明るいものにしたい」「後継者がなかなか見つからない」というざっくりとしたイメージの段階でも、まずは今のお考えをお聞かせください。

初回相談 60分無料/土日祝日 相談対応/夜間20時まで対応

0120-479-821

無料相談予約はこちら