相続人に未成年者がいる場合の「特別代理人」―専門家に依頼するメリット―

弁護士 木谷 倫之 (きだに ともゆき)

「夫が、妻と未成年の子を残して早逝してしまった」というケースにおいて、親が子の相続分まで決めてしまうのは厳禁です。

遺産分割協議自体が無効になり、後年になって大きなトラブルに発展する可能性があります。

未成年者・胎児が相続人に含まれる場合には、原則として親権者以外の「特別代理人」を用意しなければなりません。

特別代理人とは何か・誰に任せられるのかという点について解説します。

未成年者は遺産分割協議に加われない


遺産分割協議は、民法で規定するところの法律行為(財産行為・身分行為)にあたります。

未成年者も相続することはできますが、 単独で法律行為を行うことは認められていないため、相続のための遺産分割協議には参加できないのです(民法5条)。

したがって、法定相続人に未成年者が含まれる場合は、成人の代理人を立てる必要があります。

【例】夫が早逝し、妻と高校生の子が遺された場合
子にも相続分は発生しますが、未成年者であるため、遺産分割協議に参加することは認められません。

そこで問題となるのが「誰が代理人になれるのか」という点です。

未成年の相続人には「特別代理人」が原則必要


通常、未成年の法定代理人は親権者がなります。

しかし、遺産分割協議は例外です。

その親権者自身も相続するなら、未成年者本人との「利益相反」となってしまうからです。

年齢や立場に関わらず公平な遺産分割を実現するために、親権者の代わりとなる「特別代理人」を立てなければなりません(民法826条)。

【参考】利益相反とは
亡くなった夫の相続を妻子で行う場合、妻の相続分を増やすことは子の不利益に繋がります。

その逆に、親心から子の相続分を増やそうとすると、妻の相続分が減って生活に不便が生じるかもしれません。

このように「ある当事者にとっては利益になる行為が、他方の当事者の不利益になってしまう」状況を利益相反と呼びます。

未成年の相続人の数だけ特別代理人が必要


特別代理人が複数の未成年者を代理することも、やはり利益相反にあたります。

「未成年者1人につき代理人1人」という原則を守り、相続人に複数の未成年者が含まれる場合は、その数だけ特別代理人を用意する必要があります。

【例】夫が先立ち、妻と3人の子供(長男22歳・次男16歳・三男14歳)が遺された場合
→特別代理人を2人用意し、次男と三男のかわりに遺産分割協議に加える必要があります。

特別代理人を立てなくてもいいケース


親権者自身が相続人に含まれない場合は、子が未成年であっても特別代理人は不要です。

例えば、元配偶者が死亡し、その子がまだ成人していない場合、離婚し子供の親権を得ている元妻・元夫には、相続権がありません。

よって、子のために遺産分割協議に参加することができます。

相続放棄の場合も注意が必要


相続財産のうち負債のほうが多い場合は相続放棄を検討する必要があります。

相続放棄とは「遺産分割協議から特定の相続人から外す」手続きです。

相続人の一部が相続放棄をすると、他の相続人の取り分が増えるので、親子とも相続人の場合、未成年者だけ相続放棄したいときは、特別代理人を選任することが必要になります。

【例】未成年者Aの父母が相次いで亡くなり、母方の祖父母がAの未成年後見人として娘の遺産分割協議を行う場合
相続順位1位であるAが相続放棄をすると、相続順位2位の祖父母が相続人となります。

この時点で利益相反となるため、相続放棄について検討する前に特別代理人を立てたほうがよいと言えます。

相続放棄にはデメリットも存在するため、相続財産の価額・家族関係を判断材料に慎重に検討しなければなりません。

未成年の相続人に放棄させるべきかはっきりとしない時点でも、相続の専門家を特別代理人とし、子にとって良い方法を選んでもらうのがベストです。

妊娠中に相続が始まった場合の対処法


胎児にも相続権が発生するため、未成年者と同様に特別代理人を立てて遺産分割協議を行う必要があります。

ただし、協議のタイミングには注意しましょう。

胎児は、死産ではない状態で誕生したとき、相続開始時に遡って相続人であったとして扱われるとされています(民法886条)。

つまり、胎児が生まれてくるまでは誰が相続人となるのか決まらないので、誕生を待ってから協議を始める必要があります。

【例】妊娠中の妻を残して夫が先立ったケース
このとき、夫の両親も健在だったとします。

すると、胎児が元気に生まれてきた場合、妻が1/2・子が1/2で相続することになりますが、万が一死産だった場合、子は相続人になりませんから、妻3/4・両親1/4で相続することになります。

専門家に特別代理人を任せるメリット


特別代理人は家庭裁判所で審理を受けた上で選任されますが、特別代理人の候補者になるのに弁護士などの法曹資格は不要です。

相続人に含まれない遠縁の親戚(未成年者のおじ・おば等)でもOKです。

もちろん、弁護士などの相続の専門家を候補者として申し立てることもできます。

相続手続きの現場では、信頼できる親類が見つからないケース・相続税申告や登記の手続きで知識がなくとまどってしまうケースが見受けられます。

相続問題に注力している専門家に任せれば、相続手続き中に訪れる難関をクリアしながら未成年者のサポートをすることが可能です。

手続き期間短縮による節税効果


相続人に未成年者が含まれる場合、特別代理人の選任手続等で遺産分割協議が長期化しがちです。

相続開始から10ヵ月経っても協議がまとまらないと「未分割財産」に税が課せられてしまいます。

未成年控除※を有効活用するためにも、なるべく早く協議をまとめて遺産分割を実行しなければなりません。

※未成年控除とは:
未成年の相続人は「満20歳を迎えるまでの年数×10万円」の控除を受けることができます。

相続の専門家を特別代理人とすることで、家裁に申し立てる特別代理人選任手続きのスピードアップを図ることができます。

遺された家族の状況に合わせた遺産分割がしやすい


持ち家だけを親権者の名義にする場合、その評価額が親権者の法定相続分を上回るなら「多額の相続をする正当な理由」を裁判所に説明しなければなりません。

住宅ローンが残っている場合は、その残債も相続対象です。

未成年の子がいる状態の慌ただしい相続では、すべての問題を家族だけで解決するのは困難でしょう。

相続の専門家を特別代理人とすれば、「不動産や貯金の大部分を親名義で相続したい」「わが子に借金まで継がせたくない」等という想いを汲んだ最適な遺産分割の形を模索し、家庭裁判所への説明等の対応もしてくれますから、不慣れな手続きで苦労する必要がありません。

まとめ


相続人に未成年者や胎児が含まれる場合、親権者とともに遺産分割協議に参加するために「特別代理人」を要します。

相続人に2人以上の未成年者が含まれるなら、その数だけ特別代理人も準備しなければなりません。

候補者として遠縁の親戚を挙げることも可能ですが、相続の専門家に相談・依頼することで、次のメリットを享受できます。

【相続の専門家のメリット】

  • 相続財産に負債が多く含まれる場合に、適切な対処を取ってもらえる
  • 手続きの円滑・迅速化により、節税効果に繋がる
  • 遺された家族の状況に沿った相続分の調整にも対応できる

将来の相続開始が予期される状態でもアドバイス可能です。

手続きを無事に終えて家族が穏やかな日常に戻れるよう、当法律事務所でサポートします。

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