有価証券(株式・投資信託)の名義変更手続きの流れ

司法書士 宮尾 優 (みやお ゆう)

一昔前では、不動産や預貯金の相続が主流でしたが、最近では株式や投資信託等の有価証券が相続財産となるケースが増えているようです。

不動産や預貯金の相続であれば、相続人たちだけで相続手続きを済ませてしまう場合も比較的多いのですが、株式や投資信託のような有価証券が相続財産として出てきたようなケースでは、一般の方があまりなじみのない証券会社や信託銀行における手続きで苦労されることも多いのではないかと思います。

そこで今回は、相続が発生した場合の株式や投資信託等の名義変更手続きの流れについて、解説していきたいと思います。

上場会社の株式・投資信託等の名義変更手続きの流れ

まず、上場会社の株式・投資信託等の名義変更手続きについて触れていきたいと思います。

相続による上場会社の株式・投資信託等の名義変更手続きの大まかな流れは、下記のチャート図のとおりです。

証券会社・信託銀行への連絡、必要書類の確認・書式の入手

必要書類の収集

残高証明書等の取得

各相続人間で遺産分割協議を行う

遺産分割協議書の作成・署名捺印

相続人名義の証券口座の開設

証券口座の移管手続き、その後の売却・換価の手続き

ここからは、上記の流れに沿って、具体的に解説していきたいと思います。

1. 証券会社・信託銀行への連絡、必要書類の確認・書式の入手

まずは、証券会社や信託銀行へ連絡を入れて、相続が発生した旨の連絡を入れるようにしましょう。

それから今後の株式や投資信託等の名義変更(名義書換)のために必要な書類や必要な手続きについて確認を取ります。

また、このタイミングで、証券会社や信託銀行の窓口から、有価証券の相続手続きに必要な相続届等の書式(用紙)を入手しましょう。

2. 必要書類の収集

①被相続人及び相続人の戸籍
預貯金の相続手続きの場合と同様に、証券会社・信託銀行側からは、必ずといってよいほど戸籍の提出を求められます。

証券会社・信託銀行側が相続関係(亡くなった方が誰なのか、また、法定相続人が誰になるのか)を把握するために戸籍が必要となります。

②印鑑登録証明書
相続手続きの際には、遺産分割協議書へ捺印した印鑑の印影が、実印の印影と相違ないことを確認するために、印鑑登録証明書の提出を求められるのが一般的です。

証券会社や信託銀行によって異なりますが、3~6か月以内に発行されたものに限定されていることが一般的です。

戸籍の収集や遺産分割協議が難航し時間がかかった場合には、決められた期限を過ぎてしまうこともあるので、なるべく早く取得しましょう。

③住民票又は戸籍の附票
証券会社や信託銀行によっては、相続人の住所を把握するために、住民票又は戸籍の附票の提出を求められることもあります。

必要書類を証券会社・信託銀行へ確認する際には、住民票・戸籍の附票の提出が必要か否か、あらかじめ確認をするようにしましょう。

④遺言書
遺言書に有価証券の相続について記載がある場合には、誰が有価証券を取得するのか、証券会社・信託銀行側で確認することが必要となるため、必ず遺言書を提出する必要があります。

なお、自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所において検認手続きを済ませたものが必要となるので、注意しましょう。

⑤相続放棄を証する書類(相続放棄申述受理証明書等)
相続放棄を行った方がいる場合、この方は、法律上法定相続人とはならないため、証券会社・信託銀行側で相続関係を正しく把握するために、相続放棄の事実を確認できる書類(相続放棄申述受理証明書等)必要があります。

その他の必要書類ないし提出書類については、証券会社や信託銀行に確認しましょう。

3. 残高証明書等の取得

預貯金の場合と同様に、遺産分割協議を行うにあたり、まず、被相続人名義の有価証券としてどのようなものが存在するのか把握する必要があります。

そのため、まずは証券会社や信託銀行の窓口で残高証明書を取得しましょう。

証券会社や信託銀行の窓口が遠方にある場合には、郵送の方法にて取得できます。

投資信託が相続財産で、顧客の登録住所に定期的に取引残高報告書が送られてくる場合にはそれを確認する方法もあります。

残高証明書等の書類の発行を依頼する場合には、法定相続人の地位(資格)で行うこととなるため、実印の押印や戸籍謄本・印鑑証明書の提出が必要になることがほとんどです。

なお、残高証明書等の書類については、「相続発生時」のものを取得するようにしましょう。

もし、遺産分割協議時点の残高を知りたい場合には、別途「請求日直近」の残高証明書を取得するか、証券会社や信託銀行へ請求日直近の残高を確認したい旨を相談するようにしましょう。

4. 各相続人間で遺産分割協議を行う

証券会社・信託銀行の窓口から残高証明書等の書類を収集し、株式や投資信託等の有価証券の内容が確定したのちに、法定相続人全員の間で、誰がこれらの財産を相続するのか、協議(話し合い)を行いましょう。

協議がまとまったら、合意内容に基づいて、遺産分割協議書を作成していくこととなります。

5. 遺産分割協議書の作成・署名捺印

合意内容に基づいて作成した遺産分割協議書に各法定相続人が住所氏名を自署し、実印を押印することとなります。

遺産分割協議書が複数ページに渡っている場合には、製本した上で製本部分に契印を行うか、当該遺産分割協議書の各ページに契印を行う必要がある点は、預貯金の相続手続きのケースと同様です。

6. 相続人名義の証券口座の開設

相続人が被相続人名義の有価証券を引き続き保有する場合はもちろん、当該有価証券を売却・換価しようとする場合であっても、いったん相続人名義の証券口座に有価証券を移管する手続きが必要です。

そのため、相続人名義の証券口座を持っていない場合、あらたにその口座を開設する手続きが必要となります。

口座の開設の流れや必要書類については、証券会社・信託銀行の窓口へ確認するようにしましょう。

7. 証券口座の移管手続き、その後の売却・換価の手続き

証券会社や信託銀行に提出すべき書類がそろったのであれば、証券会社・信託銀行の窓口へ提出し、相続人名義の証券口座に有価証券を移管する手続きを進めます。

有価証券を引き続き保有することを希望しない場合には、売却手続きを進めて、有価証券を換価していくことになります。

売却の手続きについては、証券会社や信託銀行の窓口で確認するようにしましょう。

また、未払配当金等がある場合には、こちらの受け取りについても忘れないようにしましょう。

非上場会社の株式の名義変更手続きの流れ

次に、非上場会社の株式の名義変更手続きについて触れていきたいと思います。

相続による非上場会社の株式の名義変更手続きの大まかな流れは、下記のチャート図のとおりです。

株式発行会社への連絡、必要書類・保有株式数の確認

必要書類の収集

各相続人間で遺産分割協議を行う

遺産分割協議書の作成・署名捺印

株式の名義書換えの手続き

ここからは、上記の流れに沿って、具体的に解説していきたいと思います。

1. 株式発行会社への連絡、必要書類・保有株式数の確認

非上場会社の株式については、当然のことながら証券会社や信託銀行では取り扱っていないため、対象株式の会社へ直接連絡をするほかありません。

そこで、まずは株式を発行している会社へ連絡を入れて、対象会社の株主に相続が発生した事実を伝えましょう。

それから今後の株式の名義変更(名義書換)のために必要な書類や必要な手続きについて確認を取ってください。

また、被相続人名義の保有株式数がどれだけ存在するのかについても、確認を取りましょう。

※相続したのが譲渡制限株式で、会社から売渡の請求があった場合等(会社法第174条を参照)、結果的に株式を相続できない可能性があるので注意してください。

2. 必要書類の収集

次に、株式発行会社から提出を求められた書類を収集しましょう。

一般的には、相続が発生した事実及び法定相続人を確認できる戸籍などの提供を求められることになります。

対象株式に係る会社が株券を発行している会社である場合には、株券を提出する必要があります。

3. 各相続人間で遺産分割協議を行う

対象株式について遺産分割協議を行う点は上場株式の名義変更手続きの場合と同様です。

4. 遺産分割協議書の作成・署名捺印

遺産分割協議成立後に遺産分割協議書を作成する点は、上場株式の名義変更手続きの場合と同様です。

5. 株式の名義書換えの手続き

株式発行会社に株式名義書換請求書や戸籍、遺産分割協議書等の書類を提出し、株式の名義書換えの手続きを行います。

譲渡制限株式の売却(譲渡)について

ところで、非上場会社の株式については、上場会社の株式のように、いつでも自由に売却・換価できるわけではありません。

非上場会社の株式は、譲渡制限株式(株式を第三者へ譲渡する場合に会社の承認が必要とされている株式)であることが普通ですから、非上場会社の株式を第三者へ譲渡する場合には、会社の承認手続きが必要となります。

仮に、会社が当該第三者への譲渡につき承認しない場合には、会社又は会社が指定する指定買取人が対象株式を買い取ることとなります。

この場合には、会社法上の手続きに従って定められた対象株式の売買金額(※)が会社側から相続人側に支払われることになります。

株式の売買価格については、譲渡当事者と会社との間の協議により決定するのが原則ですが、買取通知から2か月以内にこの協議がまとまらない場合には、裁判所に売買価格決定の申立てを行うことが認められています。

相続人等に対する株式の売渡請求について

相続人に対して、会社が株主に相続があったことを知った日から1年以内に限って、対象株式を会社に対して売り渡すよう請求することが認められています。

終わりに

すでに説明したとおり、相続財産に株式や投資信託等の有価証券があるような場合には、色々と手続きが面倒なことが多いのが実情です。

株式や投資信託をはじめとする有価証券の取引を普段は行わないという方にとっては、何から手を付けていけばよいのか困ってしまうことでしょう。

相続財産の中にある程度の価値が見込める有価証券があるケースや相続税の申告手続きが必要なケースでは、手続きが面倒とはいえど、これを放置するわけにもいきません。

迅速かつ確実に相続の手続きを済ませるためにも、まずは相続の専門家にご相談されることをおすすめします。

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